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スペースXが史上最大のIPOを完了、スターリンクは携帯キャリアの牙城に照準
2026年6月12日週の通信・宇宙・衛星ニュースレター。スペースXは史上最大のIPOを実施し初日に約20%急騰。S-1目論見書はスターリンクを1.6兆ドル規模の「キャリア代替」ストーリーとして再定義し、6月17日のBlueBird打ち上げを控えたAST SpaceMobileのキャリア連携型D2D(直接接続)戦略の重要性を一段と高めた。
衛星・宇宙通信レース
2026年6月5日〜12日週: スペースXが史上最大のIPOを完了、スターリンクは携帯キャリアの牙城に照準
ついに実現した。しかも誰の想定よりも大きく。スペースXは金曜日、史上最大のIPOで株式を公開した。そして祝賀ムードの陰に、この業界が何年も待ち望んでいた文書が埋もれている。もはやS-1目論見書はキャリアへのパートナーシップの売り込みではない。それは立ち退き通知だ。今週末、注視すべきはこの転換であり、+20%の初日株価上昇そのものではない。
要約
- スペースX、史上最大のIPOを実施: 135ドル/株で750億ドルを調達、評価額は約1.77兆ドル(グリーンシューオプションが行使されれば調達額は約860億ドルへ拡大の可能性)、需要は4倍超の応募超過、初日株価は約20%上昇。これが業界全体を押し上げ、宇宙関連銘柄全体に新たなセンチメントの基準点を与えた。
- S-1目論見書が本音を露わに: スターリンクは今後約10年でモバイル通信事業者を「代替」することで1.6兆ドル規模の通信TAM(総市場規模)を狙うとしており、これによりAST SpaceMobileの「われわれはあなた方の競合ではなくインフラだ」という訴求はむしろ価値を増している。
- ASTSは来週、明確なカタリストを控える: BlueBird 8号機・9号機・10号機がファルコン9で**6月17日(水)**に打ち上げ予定。グローバルスターとイリジウムについては静かな一週間で、ポッドキャストでの直接的な言及はなかった。
今週の新情報
1. 全体を再評価させたIPO。 The Rundown(6月12日)によれば、750億ドルを調達、株数5億5,560万株を135ドルで売り出し、評価額は約1.77兆ドル。売上高187億ドルに対し売上高倍率は約93倍(NASDAQ100平均の約15倍)に達する。なぜ株価が動くのか: 約15日後のNASDAQ100組み入れにより、バリュエーションの水準にかかわらずパッシブ資金による強制的な買いが発生する。さらに月曜からは2倍レバレッジの単一銘柄ETFの取引も始まる。同業各社のバリュエーション倍率もこれに連動して切り上がった。
2. スターリンクのS-1がキャリアへ宣戦布告。 AST SpaceMobile Podcast(6月11日、「Buying Time in Space」)は、5月の目論見書についてこう率直に読み解く。1.6兆ドル規模のTAMという枠組みを提示することで、「スペースXはモバイルキャリアとのパートナーシップではなく、物理法則が許す限り最大限の代替を示唆している」。なぜ株価が動くのか: これがASTSの投資テーゼの核心だ。通信事業者がスターリンクに自社のSIMカードを奪われかねないと考えるなら、彼らは連携可能な代替手段のためにより多くの対価を払うことになる。
3. ASTSの打ち上げペースが本格化。 AST SpaceMobile Podcast(6月9日)で、ホストは同社のミッション計画をこう伝えた。「BlueBird 8号機、9号機、10号機は6月17日(水)にスペースXのファルコン9で打ち上げ予定」、さらにBlueBird 11号機/12号機/13号機は7月または8月上旬を予定している。なぜ株価が動くのか: ASTSが継続的なカバレッジを実現するうえでの制約要因は製造ではなく打ち上げにある。ファルコン9の打ち上げ枠が一つ確保されるごとに、2027年のサービス収益の実現可能性が高まる。
4. グウィン・ショットウェルがAI衛星のタイムラインを提示。 The Exchange(6月12日)で、スペースXのグウィン・ショットウェル社長兼COOはこう語った。「フルスペックのAI-1衛星の打ち上げは来年後半になるが、それに先立ちスターリンクのブロードバンド衛星やスターリンクモバイル衛星の一部にコンピュートを搭載していく…われわれは(先行テストとしての)カナリア衛星を打ち上げるのが好きだ」。同社は現在、スターシップを月1回打ち上げており、目標は週2回とのことで、軌道上には既に9,600機超のスターリンク衛星がある。なぜ株価が動くのか: このバリュエーションが賭けているのは携帯電話向けサービスではなく軌道上AIコンピュートであり、打ち上げペースの拡大がそれを可能にする鍵となる。
5. ピーター・ベックがロケット・ラボを「ピック・アンド・ショベル」銘柄として再定義。 Prof G Markets(6月7日)で、ロケット・ラボCEOのサー・ピーター・ベックは、打ち上げ・衛星・部品・サービスを網羅する一気通貫モデルを説明。「昨年、宇宙に送られたものの約30%には何らかの形でロケット・ラボのロゴが付いていた」、前四半期の売上高は2億ドル超、バックログは約22億ドル、商業と政府の比率は50対50だと述べた。なぜ株価が動くのか: 打ち上げ需要が(後述の通り)一握りの巨大コンステレーションに集中するのであれば、RKLBの部品事業は、スターリンクの損益計算書に賭けることなくこの拡大の恩恵を享受できる手段となる。
論点: 直接接続(D2D)は1.6兆ドルのTAMか、それとも基地局頼みの幻影か
強気派の主張を最大限に。 AST SpaceMobile Podcast(6月11日)は構造的な論拠を示す。ASTの次世代BlueBirdアレイは約2,400平方フィートに及び、低軌道(LEO)上の商用通信アレイとしては最大規模で、Block 1衛星は改造なしの携帯電話で98.9Mbpsを実現している。「緊急連絡用ではなく、家庭用ブロードバンド並みの速度」だという。この衛星は軌道上の携帯基地局として機能し、SIMカード・課金・データは通信事業者側が保持したまま、収益は50対50で分配される。CEOのアベル・アベラン氏はこう述べる。「時速7万マイル(約11万キロ)で高度500キロメートル上空を飛ぶものから、数百メガビットを直接携帯電話に届ける技術力において、われわれに匹敵する存在はどこにもない」。 そしてスペースX自身のS-1目論見書が、この市場規模の裏付けとなっている。
弱気派の主張を最大限に。 Stansberry Investor Hour(6月8日)は「バベルの塔」的な批判を展開する。物理法則は容赦がなく、上空のビームが数本あれば田舎のユタ州には十分でも、マンハッタンでは役に立たない。
「彼らが基地局を超えることは決してない…そして常に基地局に10年遅れている」
同番組によれば、スターリンクのARPU(ユーザー当たり平均収益)は利用者数が4倍に増えた一方で、2023年の月99ドルから現在は66ドルまで低下している。D2Dは実在する可能性があるが、規模が小さく容量制約を受け、投じた資本を回収できないままに終わる可能性もある。
率直な見方: どちらも正しい可能性がある。同AST番組が言うように、「ASTは救命ボートであって、万能薬ではない」。それは通信事業者の存在意義を保つものではあるが、スターリンクが加速させているコモディティ化の流れを逆転させるものではない。
注目銘柄
スペースX(非公開から公開へ)。 強気材料: 打ち上げシェア90%超、スターリンク加入者1,000万人超、そして信頼性のある軌道上AIというオプション。Halftime Report(6月12日)でブラッド・ガーストナー氏は、AnthropicおよびGoogleとの間で約6週間のうちに締結されたAIハイパースケーラー向け契約が約270億ドルに達し、2028年までに約1,600億ドルの売上高への道筋があると指摘した。弱気材料: 売上高倍率は約93倍、継続的な赤字、バリュエーションはAI事業に大きく依存。次のカタリスト: NASDAQ100組み入れ(約15日後)、その後のロックアップ解除。
AST SpaceMobile(ASTS)。 強気材料: 通信事業者と連携した株主構成(AT&T、ベライゾン、ボーダフォン、楽天、アルファベット3.8%)、最大248基の衛星に対するFCC認可、年間設備投資額約12億ドルに対し流動性約39億ドル、30億人超の加入者をカバーする約60のパートナー。弱気材料: 収益前段階(2025年の売上高は7,000万ドル超にとどまる)、打ち上げペース依存、単発の不具合でスケジュール全体がリセットされるリスク。次のカタリスト: BlueBird 8号機/9号機/10号機、ファルコン9で6月17日打ち上げ。
ロケット・ラボ(RKLB)。 強気材料: 垂直統合型ビジネスモデル、バックログ約22億ドル、打ち上げ貨物の約30%に同社製品を搭載、商業・政府比率50対50。弱気材料: 打ち上げ需要が同社の対応しない一部のコンステレーションに集中する可能性。次のカタリスト: ニュートロン(Neutron)ロケットの進捗と部品受注の継続(今週は新たなニュートロン関連情報はなし)。
波及効果
- 打ち上げ関連サプライヤーと「ブーム」論、過熱には注意が必要。 Bloomberg Intelligence(6月12日)でアナリストのジョージ・ファーガソン氏は、スペースXの打ち上げの76%がスターリンク自身向けであると指摘し、今後数十年にわたり世界的に見込める巨大コンステレーションは「5つか6つ」程度であり、アマゾンのLeoコンステレーションの大半はブルーオリジンで打ち上げられると見ている。結論として、外部からの打ち上げ需要は喧伝されているほど厚くなく、純粋な打ち上げ関連銘柄よりも部品・機器サプライヤー(ピック・アンド・ショベル)への投資が理にかなうことを示唆する。
- エコスター/ヒューズ(SATS)。 今回は売り手としてのみ登場。スペースXによる約200億ドルのエコスター周波数帯買収(2025年11月発表)は2026年5月12日にFCCの承認を取得したと、Stansberry Investor Hourが伝えている。今週、SATS単体としての投資テーゼの言及はなかった。
- グローバルスター(GSAT)とアップルのSOS機能。 直接的な言及はなし。ASTのアベラン氏は、グローバルスター級の容量を「緊急SOSシステム…われわれが注力するのはブロードバンドであり、まったく異なる提案だ」と位置づけた(AST SpaceMobile Podcast)。Stansberryは別途、「アマゾンがグローバルスターを買収する」との未確認情報を取り上げ、アップルはアマゾン/ブルーオリジン寄りにシフトしているとの見方を示したが、これはニュースではなく識者の推測として扱うべきだ。
- 通信キャリア(VZ、T、TMUS)。 見出しではなく、争いの主戦場。My First Million(6月12日)は、スターリンクとTモバイルの直接接続提携を月額約3〜10ドルの「圏外エリア向けアドオン」と表現した。ASTSがブラジルで取得した10×10MHzの周波数帯認可(Kook's Weekly、6月8日)は、周波数帯が依然としてキャリア連携モデルへ流れ続けていることを示している。
- スペースXの非公開市場での評価基準。 WSJ's Take On the Week(6月7日)でアスワス・ダモダラン氏は、スペースXをサム・オブ・ザ・パーツ方式で約1.2兆ドルと評価し、目論見書が示す28兆ドル(うち26兆ドルはAI関連)というTAMについて「期待というより願望に近い…銀行員が書いたのかGrokが書いたのか分からなかった」と述べた。市場全体がAIのオプション価値をどれだけ織り込んでいるかを見極める良い材料だ。
先週からの変化
前号(6月5日週)では、IPOを申請段階の出来事として取り上げた。1.77兆ドルのS-1目論見書、ASTの打ち上げ計画を狂わせたニューグレン発射台の爆発事故、そしてスペースXの宇宙軍防衛関連契約の受注などだ。今週の本質的に新しい事実は上場そのものが実現したことだ。IPOは実際に価格決定・取引され、初日に約20%上昇した。そしてS-1が明示する1.6兆ドル規模のキャリア代替という枠組みが、今後の分析の軸となる。イリジウムとグローバルスターについては静かな一週間で、来週金曜に動きがあれば要注視。