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Insilico、Latent Labs、武田がAI創薬で生産性向上を報告——合成可能性の壁が逆風に

2026年6月11日〜18日週のAI創薬ニュースレター。Insilico、Latent Labs、武田薬品がAI設計の成果を裏付ける具体的な生産性数値を提示する一方、合成可能性ギャップを扱った特集回がその対抗軸となった。

AI Drug Discovery Weekly

2026年6月18日週:Insilico、Latent Labs、武田がAI設計の成果を報告——合成可能性の壁が逆風に


要約(TL;DR)

今週は、AI創薬企業の経営陣がプラットフォームの話をやめ、具体的な生産性の数字をテーブルに載せ始めた週だった。Insilico MedicineのCEOは、5年間で30の開発候補品を生み出し、うち13がすでに臨床段階にあると明かした。Latent Labsは、AIが設計した抗体の47%が最適化なしで創薬適性のハードルをクリアしていると主張する。武田薬品のCSOは、いったん打ち切られたプログラムを「AIによるレスキュー」で救済し、現在は臨床入りを目指していると述べた。これに対する対抗軸となったのが、なぜAIが提案する分子の多くが実際には合成できないのかという技術的な議論、すなわちスライド上の成果と臨床アセットとを分ける「合成可能性ギャップ」である。今週の話題は当社が公開カバレッジとする3銘柄(RXRX、SDGR、LLY)に直接触れるものではなかったが、その含意は「プラットフォームの検証が進んでいる」というテーゼをはっきりと後押しするものであり、同時に、価値が最も速く積み上がっているのは非上場の研究所や大手製薬パートナーであって、上場ピュアプレイ企業ではないことを改めて示すものでもあった。


今週のニュース

Insilicoは今週最も具体的な生産性のスコアカードを提示した。 Realities Remixed(6月18日)で、CEOのAlex Zhavoronkov氏は「2021年以降、30の開発候補品を指名してきた……そして今では13が臨床段階、フェーズ2が3件、フェーズ2完了が1件」と述べた。生産性の差分について彼が語った表現が印象的だ。通常、メディシナルケミストが生涯で指名する候補品は「5、6、多くて7程度」であり、5年間で30というのは、彼の言葉を借りれば「桁違いの生産性(massive productivity)」だという。彼はその系譜を、46日で世界初の分子を生み出したInsilicoの2019年の生成的強化学習研究に遡らせた。

Latent Labsは抗体設計における飛躍を数値化した。 Free Radicals(6月16日)で、DeepMindでAlphaFold IIの研究者を務めた創業者Simon Kohl氏は、9カ月間で投入した3つの最先端モデルを説明した。Latent X1(デノボバインダー)、Latent X2(抗体、12月にローンチ)、そして自律型設計エージェントのLatent Yである。特に注目すべき数字は「テストした設計、抗体設計のうち47%が、最適化を一切せずに、いきなり重要な創薬適性のハードルをクリアしていた」というものだ。彼はこれを、18カ月かかっていた設計期間をおよそ1カ月に圧縮するものと位置づけ、Latent Yについては「熟練したタンパク質設計者が数週間かけていた作業を半日に短縮した」と語った。

武田薬品は「実際のパイプラインで機能している」最も明快な事例を提示した。 The BioCentury Show(6月18日)で、CSOのChris Arendt氏は、George Church氏の研究室から生まれたNablaとの提携について説明した。デノボエピトープ設計を用いて、開発不可能・製造不可能とされ「打ち切るつもりだった」重症筋無力症の大型分子を救済し、現在は複数の候補品が「まもなく……臨床入りする」段階にあるといい、これを「AIによるレスキュー」と呼んだ。また、構造データが一切ない多回膜貫通タンパク質に対するデノボ抗体設計が、今や「二桁ナノモーラー(double digit nanomolar)」のバインダーに到達していること、かつては専門家1人がまる1週間かけていた予備的な安全性評価を、現在は週20件のペースでレビューできるようになったことも明かした。

プラットフォーム構想には大物からのお墨付きも得られた。 View From The Top(6月18日)で、Demis Hassabis氏は、AlphaFoldが現在約300万人の研究者に利用されていると改めて強調し、Isomorphic Labs(Alphabetのスピンオフ企業)について「AlphaFoldに匹敵するブレークスルーをいくつも積み重ね」、創薬を「年単位から月単位、いつの日か週単位にまで」短縮すると位置づけた。

低分子領域からの地に足のついたデータ点: The Long Run with Luke Timmerman(6月16日)で、OctentのSri Kosuri氏は、機械学習によるイテレーティブなケミストリーによって約25万種のアナログ化合物を合成し、ロドプシンのミスフォールディングを是正する経口補正薬OCT-980にたどり着いたと説明した。同薬は現在フェーズI-B段階にあり、データは2027年第3四半期に見込まれている。これは、AIが依然として大規模かつリアルなウェットラボの化学サイクルの上に成り立っていることを思い出させる事例だ。


議論の焦点

今週の強気論は、珍しくデータに裏打ちされたものだった。複数の独立したプレーヤー(Insilico、Latent Labs、武田薬品)が、単なるTAM(総市場規模)論ではなく、実際の候補品数、ヒット率、臨床入りのタイムラインをAI設計の主張の裏付けとして提示した。

弱気論には専用のエピソードが割かれた。Data in Biotech(6月17日)では、合成可能性ギャップが議論の中心となった。しばしば言語モデル風の2D・文字列表現の上に構築された生成モデルは、実験室で「現実的に合成できない」分子を日常的に提案してしまい、その結果「その生成AIに投じられた作業と、投入された膨大な計算量」が、検証すら決して行えない候補品につながりかねないという。より根本的な批判は、抽象的な2D表現では結合を実際に左右する3D的な現実を捉えきれないという点であり、これこそがAIの予測が「実世界でテストすると、非常に頻繁にうまくいかない」理由だとされた。提案されている解決策、すなわち探索範囲を合成可能であることがわかっているビルディングブロック化学に限定するというアプローチは、そもそもAIを魅力的にしている新規性そのものを引き換えにしてしまう。

まとめると、今週は「AIがタイムラインを圧縮し、難しいターゲットを救済する」というテーゼを強化した週であると同時に、見出しになりがちなヒット率統計を割り引いて見るべき最も強い根拠を提供した週でもあった。「最適化なしでいきなり創薬適性あり」が47%という数字も、その設計のかなりの部分が実際には合成・投与できず、臨床を生き延びられないのであれば、大きな意味は持たない。


注目銘柄

ティッカー 株価(6月18日) 前日比 52週レンジ 時価総額
RXRX $3.23 +3.86% $2.77–$7.18 $1.4B
SDGR $15.76 +1.48% $10.95–$23.75 $1.2B
LLY $1,098.13 -1.25% $623.78–$1,182.73 $1.03T

**Recursion(RXRX)Schrödinger(SDGR)**という上場AIプラットフォームのピュアプレイ2社は、今週ポッドキャストやニュースでの言及が一切なく、いずれも52週レンジの下限付近にとどまっている(RXRXは高値$7.18に対し約$3.23、SDGRは高値$23.75に対し約$15.76)。このギャップこそが今週の本質だ。検証を裏付ける見出しを生んでいるのは非上場の研究所であり、上場ピュアプレイ企業は議論の外に置かれ、評価も切り下げられている。

**Eli Lilly(LLY)**は今回のユニバースの中で唯一のハードな企業ニュースを出したが、内容はAI関連ではなく臨床試験に関するものだった。6月15日、同社はピルトブルチニブベースの3剤併用レジメンについて、再発・難治性CLL/SLLを対象とするフェーズ3で、639人の患者を対象に進行または死亡のリスクを45%低減したという成功を報告した(MT Newswires、2026年6月15日付)。株価は当日約1.25%下落したが、52週レンジの中では高値寄りの水準で推移している。


読み解き(Read-throughs)

  • 検証の恩恵は、今のところピュアプレイではなくプラットフォームと大手製薬パートナーに積み上がっている。 武田薬品によるNablaのレスキュー案件と、Insilicoの臨床段階候補品数の実績は、大手製薬企業と非上場の研究所が初期のAI設計の勝ち筋を捉えていることを示している。SDGR(ソフトウェアとパイプラインを組み合わせたモデル)にとって、これは科学的にはテーゼを裏付ける材料である一方、収益化に関しては競争上の警告でもある。デノボ抗体・タンパク質設計のフロンティア(Latent Labs、Nabla)は急速に動いており、その大部分は上場銘柄の外側で進んでいる。
  • 合成可能性への批判は、ヒット率をアピールするマーケティングへの直接的なチェック機能となる。 SDGRやRXRXが次にAIのスループットや設計成功率を強調する際には、Data in Biotechが示した視点が正しいデューデリジェンスのレンズとなる。すなわち、設計のうちどれだけが実際に合成可能で、その予測がウェットラボでどこまで通用するのかを問うべきであり、in silico(コンピュータ上)の結果だけを見てはならない。
  • 大手製薬企業はAI創薬を内製化しつつある。 武田薬品が200件のAIアプリを計画し、創薬タイムラインを半減させたと語っていることは、最大の買い手(SDGRのソフトウェアやRXRXの提携にとって本来の顧客)が自社内での構築を進めていることを示しており、プラットフォームを製薬企業に販売するビジネスにとって中期的な需要リスクとなる。
  • Isomorphic/AlphaFoldの勢いがハードルを引き上げる。 Hassabis氏の「年単位から週単位へ」という表現は、上場銘柄が比較される物語上の天井を引き上げるものだ。これはテーマ全体のセンチメントを押し上げる一方で、科学が加速する中でなぜ上場ピュアプレイ企業の評価が切り下げられ続けているのかという問いをより鋭くするものでもある。

先週との比較

本号はAI Drug Discovery Weeklyの創刊号であり、比較対象となる過去のベースラインは存在しない。来週以降、このセクションでは議論の週次変化、候補品・パイプラインのマイルストーン、カバレッジ対象銘柄群の株価動向を追跡していく。今週設定したベースラインは、RXRX $3.23、SDGR $15.76、LLY $1,098.13。議論の中心は、AI設計の生産性を巡る主張と合成可能性ギャップとの対比だった。