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SpaceXが1兆7800億ドルで新規上場、AST SpaceMobileは衛星3基を追加
2026年6月19日週の衛星・宇宙通信ニュースレター。SpaceXが1.78兆ドルの評価額で新規上場を果たし約50%急騰する一方、AST SpaceMobileは軌道上にブルーバード衛星をさらに3基積み増し、純粋衛星株はフロート(浮動株)の力学とファンダメンタルズを巡る綱引きで乱高下した。
衛星・宇宙通信レース
2026年6月19日週:SpaceXが1兆7800億ドルで新規上場、AST SpaceMobileは衛星3基を追加
この業界が2年間待ち望んでいたことが、ついに現実になった。SpaceXが上場したのだ。同じ96時間のうちに、D2D(衛星直接通信)の対抗馬と目されてきた企業が、Falcon 9でひっそりと衛星をさらに3基積み増した。純粋衛星株は売り込まれ、その後半分は反発した。一点、事務的な注記を。今号は直近7日間のポッドキャストのみを情報源としており、企業インサイダーが一人としてマイクの前に座っていない。以下はすべて**投資家(investor)または評論家(pundit)**のコメントであり、そのようにタグ付けしている。
TL;DR
- SpaceXは1株135ドル、評価額1.78兆ドル、フロート(浮動株比率)は約4〜5%、全株プライマリー(新株発行分のみ)で価格決定し、その後約50%急騰してAmazon(約2.7兆ドル)を上回った。 Damodaranの試算では1.2〜1.3兆ドルが妥当な水準だという。ファンダメンタルズではなく、フロートがこの相場を動かしている。
- AST SpaceMobileはブルーバード8号機、9号機、10号機を軌道投入した(合計9基、年内目標は45基)。 強気派は、AT&T・Verizon・T-Mobileの合弁事業(JV)が規制当局の審査を通過した後、第4四半期あたりにT-Mobileとの正式契約が決まると見ている。
- 純粋衛星株は乱高下。 Rocket Labは上場当日に11%下落したが反発し、Space Forceから9000万ドルの契約を獲得したこともあり年初来+56%となっている。Globalstar、Iridium、EchoStar、Apple関連のSOS(緊急衛星通信)は今週ポッドキャストでの言及がなく静かだった。
今週の動き
1. 史上最大のIPOは、IPOのセオリーをことごとく破った。 Patrick Boyle On Financeの「What SpaceX, Anthropic and OpenAI's IPOs mean for investors」(6月14日、PUNDIT)でBoyleがその仕組みを解説している。5億5500万株超を1株ちょうど135ドルで売り出し、調達額は約750億ドル(グリーンシューを含めれば最大約860億ドル)、評価額1.78兆ドル、そして売却されたのは**会社のわずか約4〜5%**にとどまる(通常のIPOは約20%)。デュアルクラス株による議決権構造とテキサス州への本店移転も特徴だ。フロートが極端に小さいうえ個人投資家の申込倍率が7倍に達しており、これは構造的な踏み上げであり、他のすべての銘柄が今後値動きの基準として意識するセンチメントの錨(いかり)になっている。
2. AST SpaceMobileのブルーバード8〜10号機が軌道に到達した。 The Rundownの「OpenAI Burned $3.7B in Cash...」(6月17日、PUNDIT/news)によれば、ASTはFalcon 9でブルーバード衛星を3基打ち上げ、コンステレーション(衛星群)を年内目標45基に対して現在9基まで積み増した。同日午前中に株価は+6%となった。AST SpaceMobile Podcastの「Historic Deployment: Bluebirds 8-10 Reach Orbit」(6月17日、INVESTOR)では、司会者がさらに詳細を補足している。今回はBlock 2の初バッチをスタック(積み重ね)方式で打ち上げたこと、複合材構造の生産ペースは月4〜5基(第3四半期に月6基を目標)であること、ブルーバード11〜13号機は7月末〜8月の打ち上げに向けて出荷準備中であること。ベータサービスには約25基が必要であり、無収益フェーズにあるこの銘柄にとって打ち上げペースこそが投資テーマのすべてだ。
3. Damodaranは「価格は5000億ドル高すぎる」と指摘する。 Excess Returnsの「The Trillion Dollar Gap | Aswath Damodaran」(6月19日、PUNDIT)で、NYUの同学部長はSpaceXを打ち上げ事業(市場は現在の8〜10倍に拡大するとの前提で全体の60%)、Starlink(売上約150億ドル、全体の60〜70%)、AI/Grok(目論見書の26兆ドルではなく、5〜6兆ドルのTAM=総アドレス可能市場を許容)の3つに分解し、DCF(割引キャッシュフロー)で約1.2〜1.3兆ドルという評価額を算出している。最も鋭い指摘はAI事業の矛盾についてで、SpaceXはデータセンター容量をGoogleやAnthropicに賃貸しながら、その同じ相手を打ち負かすと主張している点だという。
「それはまるで、製造業の会社が『自分たちは大きな市場シェアを取りに行く』と豪語しながら、実際には大きな工場を建てて、その3分の2を最大の競合2社に貸し出しているようなものだ。」
4. Rocket Labは「打ち上げ会社」から「インフラ企業」へと評価が変わりつつある。 Brew Marketsの「Banning Kids from Social Media & SpaceX's Ripple Effect」(6月15日、INVESTOR/PUNDIT)でAnne Berryが指摘するように、RKLBは米宇宙軍から静止衛星2基の製造・運用を担う9000万ドルの契約を獲得したばかりで、「打ち上げ事業者というより、ますます宇宙インフラ企業に見える」という。反復的で自社資産に基づく収益は、打ち上げごとの手数料収入よりも高いマルチプルを得られる。
論点:D2D市場は本物か、それとも物語か
強気派の主張を最大限公平に見る。 AST SpaceMobile Podcastの「Why Starlink's Direct to Device Strategy is Delusional」(6月16日、INVESTOR)では、D2D(衛星直接通信)は**1兆ドル超の機会(衛星直接通信のみに限れば約7500億ドル)であり、勝敗を分けるのはアーキテクチャだという主張が展開されている。ASTの最初のコンステレーションはキャリア各社のロー・バンド(低周波帯)**スペクトラムを使用しており、トンネル内、森林内、屋内でも電波が届くのに対し、Starlinkのミッド・バンド(Sバンド)ではそれができず、Starlinkが携帯サービスを提供するなら別途eSIMと契約が必要になる。規制面での追い風も積み上がっている(ブラジルのAnatelがASTを承認し、10MHz×10MHz幅のSバンドを無償で割り当てた。ASTは宇宙開発局向けに900MHz帯のテストも実施中)。最も強気な見立ては、VCのJason Calacanis氏がThis Week in Startupsの「SpaceX IPO Day: What Wall St. and the media missed」(6月13日、INVESTOR)で示したもので、Starlinkが衛星直接通信を通じて加入者数1000万人から1億人へと拡大する確率を「99.999%」と語っている。
弱気派の主張を最大限公平に見る。 TAM(総アドレス可能市場)の数字は演出にすぎない、という見方だ。前出のPatrick Boyleでは、目論見書が掲げる28.5兆ドルというTAMは、地球上の経済活動を行う全人類が宇宙・AI関連に年間約2万8500ドルを支出する計算になり、実際に宇宙関連に紐づくのは約2兆ドルにすぎないと指摘している。
「宇宙打ち上げの市場規模は、ポテトチップス市場のおよそ半分にすぎない。」
さらにビジネスモデル自体も実証されていない。キャリア各社が経済的な取り分を気前よく分け与える保証はどこにもなく、ASTは無収益で資金を燃やし続けており、Starlinkは750億ドルの資金力と約1万基の衛星群を武器に、展開競争で圧倒的な物量差をつけられる立場にある。率直に言えば、方向性は本物だが、規模とタイミングはまだ物語の域を出ていない。
注目銘柄
- ASTS: 強気材料: 衛星9基が稼働、打ち上げペースが加速、ロー・バンドによるカバレッジの優位性、第4四半期のT-Mobile契約への期待。弱気材料: 無収益、ベータサービスに約25基が必要、空売り残高は約6800万株(過去最高水準に近い)、キャリアJVの規制通過に成否が依存。カタリスト: ブルーバード11〜13号機の打ち上げ(7月末〜8月)とT-Mobileとの覚書(MOU)の有無。
- RKLB: 強気材料: 9000万ドルのSpace Force静止衛星契約、年初来+56%、インフラ企業としての再評価。弱気材料: 投資家がSpaceX株を直接買えるようになった瞬間に11%急落した。カタリスト: Neutronロケットの進捗、追加の防衛関連受注。
- SpaceX(新規上場後): 強気材料: Starlinkの売上は約150億ドルで報道によれば黒字化、164カ国で加入者1000万人、打ち上げ事業の参入障壁の高さ(7investing、6月16日/Trappin Tuesday's、6月14日)。弱気材料: 実績売上の約90倍という評価倍率、四半期のフリーキャッシュフロー流出は約90億ドル、2030年までに2350億ドルの資金ギャップ(Patrick Boyle)、Damodaranの試算では1.2〜1.3兆ドル。カタリスト: 第2四半期決算(8月)、初めての実際の業績数字とインサイダー株のロックアップ解除の第一関門。
- GSAT、IRDM、SATS: 今週は静か。 専門のポッドキャスト報道なし。Apple・Globalstarの緊急SOS機能に関する言及も同様に静かだった。
波及効果
- キャリア各社(VZ、T、TMUS): AST SpaceMobile Podcast(6月16日、INVESTOR)は、OppenheimerがAT&Tを格下げした理由がStarlinkとの競合懸念にあると指摘し、衛星関連の話題が今やキャリア各社の決算説明会の質疑応答の約20%を占めるまでになった(2〜3年前はほぼゼロだった)と述べている。T-MobileのStarlink独占提携は6〜7月に終了予定であり、AT&T・Verizon・T-MobileによるD2D合弁事業の正式合意が、ASTの商用契約が動き出すための前提条件となっている。衛星関連はもはや脚注ではなく、キャリア各社の評価倍率を左右するスイングファクターとなった。
- 打ち上げ・部材サプライヤー: Brew Markets(6月15日)は、時価総額約2430億ドルの**Linde(LIN)**を最もクリーンなサプライヤー銘柄として挙げている。SpaceXの打ち上げの約70%に燃料を供給しており、Starbaseから30マイル未満のブラウンズビルで新工場の建設に着手、年初来+22%。Intuitive Machines(LUNR)とRedwireは上場当日に売られた。
- センチメントの錨としてのSpaceX評価額: 1.78兆ドルで値付けされ、現在は約2.7兆ドルで取引されている。The Wall Street Skinnyの「Elon Musk Engineered SpaceX IPO 'Perfectly'」(6月19日、PUNDIT)は、Musk氏がブックビルディングを経ずに135ドルという「テイク・イット・オア・リーブ・イット」の価格を一方的に設定し、パーペチュアル先物市場が「完璧な」20%の初値上昇をあらかじめ織り込んでいた経緯を詳述している。この錨がフロートの力学とミーム的な資金フローに左右される以上、業界全体のベータはより不安定になり、小型株への波及効果はそれを割り引いて見るべきだ。
先週との比較
先週号の内容を手元に持っておらず、行単位で比較することはできないため、今週のポッドキャストが語る「これまでの経緯」を軸に振り返る。変化はレジーム(局面)そのものの転換だ。5月下旬の業界はIPOを控えて楽観一色だったが、その後に起きたBlue Origin New Glennの打ち上げ失敗(これによりASTはブルーバード1基を失った)が「水を差した」(AST SpaceMobile Podcast、6月16日)。それが今週、IPOが実行に移されたことで、2年間の噂話が1.78兆ドルという確定した数字と、日々値が動く生きた基準に変わり、ASTもクリーンな打ち上げでそれに応えた。「やるのか、やらないのか」という宙ぶらりんの状態は終わり、新たな論点はフロートの力学とファンダメンタルズのどちらを取るかに移っている。そしてその論点は、すでに資金を純粋衛星株から吸い上げ、母艦であるSpaceXへと流し込みつつある。