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キャリーは健在、ただし調達通貨はドルではなくユーロ・スイスフラン・円へ

2026年7月3日の週のEM FX。ドル強気派が復活し、JPMorganのデスクはユーロ・スイスフラン・円で調達することでドル買いとキャリー取引を同時に成立させており、人民元は市場全体の錨として機能し、コモディティが輸出国の相場をけん引している。

EM FX

2026年7月3日の週: キャリーは健在、ただし調達通貨はドルではなくユーロ・スイスフラン・円へ


EM強気派が今年ずっと拠り所にしてきた構図、すなわちドル安がすべての高利回り通貨を押し上げるという前提が、今週静かに覆された。今、主要なデスクはドルを空売りするどころか買い越しに傾いている。それでもキャリー取引を手放す動きはない。彼らの主張はシンプルで、調達通貨をドルから外せばよいというものだ。地味な転換に見えるが、ポートフォリオの組み方は大きく変わる。

TL;DR

  • J.P.モルガンのFXデスクは今、「ブリッシュ・ベータ」戦略、すなわちドル買いとキャリー買いを同時に走らせる立場を取っており、両者の整合性はユーロ・スイスフラン・円で調達することで担保している(ドル調達ではない)。
  • 人民元は複合体全体の錨(アンカー)である。ドル/人民元は今週上昇し(フィキシングは一時6.82超え)、配当シーズンの資金流出と、混雑した買いポジションの利益確定が背景にあったが、デスクは中期トレンドは依然として健在とみており、「崩れ」ではなく「健全な調整(rinse)」と位置づけている。
  • コモディティがEMストーリーの主役を担っている。ブレント原油は第3四半期に86ドル前後で推移するとみられ、銅は15,000ドル/トンへ向かうとの見立てもあり、エネルギー・金属の輸出国には追い風、輸入国には負担となる。

What's New

ドル強気相場が復活、しかしキャリーは死んでいない。 At Any Rate, Global FX: Mid-Year Outlook pushbacks, payrolls, CNY, GBP (Jun 26)にて、J.P.モルガンのFX戦略共同責任者Meera Chandanはハウスビューを明確に示した。ドル強気かつキャリー強気だ。ユーロ/ドルの目標を1.10近辺(フェアバリューの1.11近辺に対して)へ引き下げつつある。金利の再プライシング、現在カーブに織り込まれたFRBの利上げ約40bpsが、まだFXに反映されていないと主張する。整合させるための、そして実際に使える結論は「キャリー取引は非ドル調達通貨、ユーロ、スイスフラン、円を通じて表現するのが最も理にかなっている」というものだ。それが今週のトレードだ。

人民元に何かが起き、誰もが気づいた。 同じエピソードで、共同責任者Arindam Sandilyaはドル/人民元の急伸について語った。スポットは約0.75%上昇し、フィキシングは一時6.82を超え、「現金でCNY強気ポジションを持つ向きの利益確定とプロテクション買いがかなり見られた」という。彼はこれを季節性の配当流出(想定650~700億ドル)とナラティブの結果とみており、レジーム転換ではないとする。正しい見方は中国の国際収支であり、それは依然として供給よりも需要が上回ることを示唆しているという。彼の見立てでは、資金流出のピークに向けてスポットはさらに上振れうるが、「差し引きすると…健全な調整(rinse)に見える」。

人民元は複合体全体を動かすドミノだ。 Making Sense, 2026 Mid-Year Outlook: Resilient growth, sticky inflation, shifting policy (Jun 29)で、Chandanはこの構造的な論点を明確にした。ドル/人民元の低下は「ドル複合体全体にとって主要な錨の一つ」であり、もし中国がスタンスを変え人民元安を容認すれば、グローバルFX全体への波及は「かなり大きい」ものになるという。これはEMキャリーのブックすべての下に潜む、最大級のテールリスクとして記憶しておくべきだ。

この分断はコモディティ主導であり、国別主導ではない。 Chandanによる上半期の総括(同エピソード): 貿易加重ベースでのドル全体はほぼ横ばいだったが、その内訳では、エネルギー輸入国、アジアの多くが打撃を受けた一方、高利回りのコモディティ・エネルギー輸出国、彼女はブラジルと、特異なケースとしてハンガリーを挙げた、が優位に立った。同じ断層線が下半期も続くと彼女はみている。

個人投資家向けにも同じ物語がある。 輸入国側の視点として、InvestTalk, Should You Hedge Currency Risk? The Dollar, Yen, and Rupee (Jun 27)は率直にこう述べた。ドル高は海外の金融環境を引き締め、中国やインドといった原油輸入国は「通貨防衛と資本流出防止のために利上げを迫られる」、それが成長を鈍らせ株式バリュエーションの上限を抑えるという。これはデスクの見解ではなく評論家的なコメントだが、ルピーの管理された緩やかな下落を理解する上では妥当な枠組みだ。

The Debate

ここは相場観が本当に二分している部分だ。

強気の根拠はJ.P.モルガンの見立てにある。堅調なインフレ、より長く続く中銀のタカ派姿勢、そしてまずまずの成長は「FX市場の投資家はキャリーを求めることになる」(Chandan, Making Sense)ことを意味する。低利回り通貨で調達すれば、タカ派FRBはむしろ好材料になる。

一方で慎重論も同じデスクから出ている点が興味深い。At Any Rateは冒頭を顧客からの反論に費やした。1.5回の利上げが織り込み済みなら、リスクリワードはまだ成立するのか。高利回り通貨は利上げを続けるFRBに耐えられるのか。彼ら自身の答えは「何と比較するかによる」というもので、広範なFRBの利上げが起きればドルはあらゆる通貨に対して、高利回り通貨も含めて強くなることは認めている。ここに、混雑した人民元買いポジションの利益確定と、ChandanのCNYドミノ警戒を重ねると、弱気シナリオの萌芽が見えてくる。すなわち同じ方向に傾いたブックが、政策転換一つで調整(rinse)される可能性だ。今週のポッドキャストで語られなかったのは、従来型の「ドル安がEMを2026年のトレードにする」という強気論だ。その前提こそが今回覆された。

The Trades in Play

  • 正しく調達されたキャリー。 高利回り通貨をEUR/CHF/JPYの調達通貨に対してロングし、USDに対してではない(At Any Rate)。先進国通貨の中ではJPMは依然AUDとNOKを最上位の利回り候補として好んでおり、EM側では輸出国、ブラジルと特異的なハンガリーが最も有望とみられている。
  • ユーロ売り。 EUR/USDの1.10到達は、米国例外主義(US-exceptionalism)の見方を最もクリアに表現するものだ(JPMの両エピソードとも)。
  • 円ラインには注意。 ドル/円は162.40をつけ、財務省の片山氏は極めて落ち着いた口調で「コミュニケーションは安定している」「適切に対応する」と述べた(Saxo Market Call, Leverage upon leverage, what could go wrong? (Jun 30))。しかしJPMの160円台半ばという目標は、まさに介入リスクの水準にある。円を調達通貨にするのは、それが崩れるまでは割安に見える。
  • 次の注目材料: 米国6月雇用統計。Patrick Locke(At Any Rate)は、ヘッドライン数値ではなく失業率と賃金こそがFRBの居心地の悪さを左右する審判役だと述べている。

Read-Throughs

  • コモディティがEMの追い風。 Making SenseでGreg Scheerは、ブレント原油が第3四半期に86ドル前後、第4四半期に80ドル前後(フォワードカーブを上回る水準)で推移すると見込み、銅は中国主導の産業回復と米国の精製銅関税をめぐる駆け引きを背景に15,000ドル/トンへ向かうとみている。これはエネルギー・金属輸出国(ブラジルおよびコモディティ通貨を想起)にとっての追い風であり、アジアの輸入国やエネルギー輸入型のEMB(新興国ドル建て債)クレジットにとっては逆風となる。
  • 金は「さらなる氷河期」に。 Scheerは、タカ派FRBが利上げを控える中で構造的なゴールドトレードを凍結させたと指摘する。今週直接名指しされてはいないが、金・PGM連動色の強いランド(南アフリカ通貨)にとって静かな重荷となっている。
  • AUDは依然として中国の代理指標。 Saxoは、AUDが200日移動平均線(約68.75)を試しており、年初来安値は68.33であると指摘した。JPMはキャリー観点で依然AUDを選好している。銅と人民元がどちらに動くにせよ、AUDは流動性の高い先行指標であり続ける。
  • ユーロサイクル=CE3(中欧3カ国)の潮目。 ユーロが1.10へ向かって上昇することは、その流れに乗るPLN/HUF/CZK圏にとってはやや逆風となる。今回のポッドキャストでは深く扱われなかったが、注視に値する。
  • ドル体制そのもの。 人民元が錨である(Chandan)。ドル/人民元の低下がドル全体の上値を抑えてきており、政策主導での反転はEM複合体全体を一斉に直撃しうる安全弁となる。