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従量課金に顧客が反発、根強く残る「席」課金 - SaaSは壊れているのか

A Help Scout founder spent a year trying to kill per-seat pricing and customers refused, even when usage was cheaper, while the token bill kept biting and OpenAI kept its inference-cost savings. Our synthesis of the SaaS podcast tape for the week of July 3, 2026.

SaaSは壊れているのか

2026年7月3日の週: 従量課金に顧客が反発、根強く残る「席」課金


先週は弱気派に勢いがあった。従量課金は「一方通行のドア」であり、席(シート)課金は死んだ、適応しなければ淘汰される、という論調だ。ところが今週、実際にそれを試みた創業者が、そのドアは両方向に開くと語った。Help Scoutは席課金からの移行に1年を費やしたが、顧客はそのドアを通ろうとしなかった。一方でトークン代は依然として重くのしかかり続け、OpenAIは推論コストを半減させながらも、その節約分を自社の利益として確保した。

TL;DR

  • バイヤーは従量課金への抵抗を強めている。 Help Scoutは席課金と接点(コンタクト)課金を12カ月間並行運用したが、たとえコストが安くても顧客は従量モデルを拒んだ。席課金は弱気派が考えるよりも根強く、先週の「一方通行のドア」論に対する明確な反証となった。
  • トークン代は依然として重くのしかかっている。 CoinbaseはAI支出を約50%削減、Fordは検査担当者を約300人再雇用、Priceline はCFOに従業員のように使用量を管理させている。モデル価格はこの1年で約50%下落した一方、トークンコストは4.5倍に増加した(Bain調べ)。従量課金型収益には需要の天井がある。
  • OpenAIは推論コストを半減させ、その分を手放さない。 コンピュートが安くなってもSaaSのAI機能マージンは自動的には改善しない。ラボ側がその分を懐に収めるからだ。

今週の新情報

1. ある創業者が席課金の廃止を試みたが、顧客に拒否された。 Startups For the Rest of Us、第839回、6/30放送で、Help Scout創業者の**Nick Francis[オペレーター]**は、2024年11月に席課金から接点課金へと移行した経緯をこう説明した。「12カ月かけて3種類のバリエーションをテストした。結論から言うと、うまくいかなかった。たとえ支払い額が安くなるとしても、顧客はそれを望まなかった」。接点課金は「席課金より変動費が30%低かった」が、バイヤーは席課金の方が制御しやすいと感じており、結局Help Scoutはハイブリッド、すなわち「席課金に加えてAI解決件数に応じて課金する」形に落ち着いた。席ベースの顧客基盤は、「席課金は死んだ」という論調が想定するよりもはるかに根強い。

2. トークン代の請求が再び重くのしかかり、そして逆転が起きた。 Future Ready Leadership、7/1放送で、**Jacob Morgan[アナリスト]**はWSJ/Bain/Goldmanの分析を引用し、AIによる品質チェックが機能不全に陥ったためFordが「人間を現場に呼び戻した」と報告した。またBainによれば「モデル価格はこの間におよそ50%下落した一方、トークンコストは同じ期間に4.5倍に増加した」という。20VC、7/2放送では、**Jason Calacanis[アナリスト]**がCoinbaseがAI支出を約50%削減したと述べ、「その効果はどこにあるのか」という問題を提起した。上位1割に入るあるポートフォリオ企業がトークン支出を倍増させたいと考えたが、「それをROIに紐づけようとすると、あの優秀なチームでさえ説明できなかった」という。

3. Amazonの契約が、時間課金からトークン課金へと再交渉された。 The AI Daily Brief、6/30放送で、**NLW[アナリスト]**はThe Informationの報道を引用し、AnthropicがAmazonの130億ドル投資に伴う「特別待遇」を再交渉したと述べた。Amazonが支払うClaudeの利用料は、来年から「生の計算時間」ベースから「他の大口Anthropic顧客と同様、トークンベース」に変わる。またAmazonはコスト削減のため、OpenAIあるいは自社のNovaモデルへの切り替えを検討しているという。「AI補助金時代の終わりは、AIサービスの経済性を劇的に変えつつある」。

4. OpenAIは推論コストを半減させたが、その利益幅は手放さない。 The Information誌のTITV、6/30放送で、**Stephanie Palazzolo[アナリスト]**は、OpenAIのエンジニアが「コストを半分以上削減した」と述べた上で、こう予測した。「彼らは粗利益率を拡大させるだろう……この節約分が顧客に還元されることはないと思う」。約52%とされるAI機能の粗利下限は、トークンが安くなったからといって下がることはない。

5. これまで目立たなかった2社が、オペレーターとして表舞台に立った。 The Product Podcast、第302回、7/1放送で、Asanaの最高製品責任者(CPO)である**Arnab Bose[オペレーター]は「10人以下」の極めて小規模な事業者に価値を提供するのは「難しい」と認め、「それくらいの規模なら、エージェント型ツールを使ってある程度自前で済ませられるようになる」と述べた。CPO自身の言葉による、低価格帯における席課金の目減りだ。Tech Talks Daily、6/29放送では、Atlassianの最高技術責任者(CTO)であるTaroon Mandhana[オペレーター]**が、コンテキストこそが競争優位だと主張し、自社のチームワークグラフが「1540億件を超える接続」を持つと語った。一方で、それを自社エージェント「Rovo」だけでなく「Cloud Cowork」や「ChatGPT」にもMCP経由で開放しつつあり、「自社エージェントRovoに限定していない」とも認めた。開放はリーチを広げるが、Rovoが囲い込みたかったワークフローに競合エージェントを招き入れることにもなる。

論点

強気派: 既存企業が再評価され、席課金は根強い。 より安価な従量課金を提示されても、Help Scoutの顧客は席課金を選んだ。Monetary Matters、7/2放送で、投資家の**Erik「YWR」[アナリスト]**はこう認めた。「彼らの決算予想は上方修正され続けている……これはソフトウェア崩壊論をある程度否定するものだ……(株価の)下方修正幅は、実際のリスクに対して行き過ぎている」。成果連動型課金はそのために設計された領域でこそ機能する。IntercomのBrian Donohue[オペレーター](The Way of Product、7/2放送)はこう述べる。「1件解決すれば99セント……基本料金は一切ない」。データとワークフローの主導権を握る企業なら、根強い席課金の基盤の上に従量課金を組み合わせられる。

弱気派: 構造的な問題であり、時間とともに悪化する。 Erikはその裏返しも語った。「席課金というモデルはすべて変わらざるを得ないと感じる……これらの銘柄は半ば死に金になるかもしれない」、そして「弱気シナリオはむしろ時間とともに強まっているかもしれない」。この見方は他の番組でも共有されている。Business of Tech、7/2放送で、**Rich Freeman[アナリスト]**は「この業界で今や誰もが死につつあると認めている唯一の課金モデルが、席課金だ」と述べ、「人員は減っているのに健全な成長を続けている企業」の例を挙げた。席数は減り、トークン支出には上限がある。今後の分かれ目は、従量課金による収益が、これ以上のマルチプル下落が進む前に、席課金の目減りを上回るペースで伸びるかどうかだ。

注目銘柄

  • ADBE (直接関連): 強気材料: 割安、自社株買いを実施中、「250億ドルの自社株買い枠」、約190ドルの安値から算出したキャッシュフロー倍率は約8〜12倍(The Synopsis、7/3放送【アナリスト】)。弱気材料: 「10四半期連続」でARR伸び率が鈍化、値上げはCEO退任後まで延期、正式なCEO・CFO不在、「溶けゆく氷塊」状態。カタリスト: 誰が値上げを実行するか。
  • CRM強気材料: データ層を握る立場、MCP経由で「ヘッドレス化」が進行中。弱気材料: 人員が横ばいの世界で席課金に依存。カタリスト: Agentforceの従量課金ARR。
  • DDOG (直接関連なし): 強気材料: すでに従量課金制であり、エージェント活動が増えるほど利用量も増える。弱気材料: 顧客がトークン使用量に上限を設ければ、従量課金収益の伸びも鈍化する。カタリスト: NRR(純収益維持率)。
  • TEAM (オペレーター): 強気材料: 1540億件の接続を持つコンテキストグラフという競争優位。弱気材料: グラフをChatGPT/Cowork に開放することでRovoの席課金の囲い込みが薄まる、依然として席課金型。カタリスト: Rovoの従量課金指標。
  • HUBS (直接関連なし): 強気材料: 中小企業(SMB)向けの「信頼できる情報源」的立ち位置、SMBは席課金からの離脱に抵抗しやすい。弱気材料: Asanaが指摘した10人未満のAIネイティブ企業による締め付けに、最もさらされやすい。カタリスト: Breezeのアタッチ率とNRR。
  • ASAN (オペレーター): 強気材料: 業務グラフを企業の「自己学習型ブレイン」として位置づけ。弱気材料: CPO自身が、10人未満のアカウントはエージェントで「ある程度自前で済ませられる」ようになったと認めている、最も小規模かつ席課金依存度の高い顧客層。カタリスト: AI Studioのマネタイズ状況。
  • MNDY (非公開扱い): 強気材料: 席課金とAIクレジット課金のハイブリッド化が最も進んでいる。弱気材料: SMB中心の席課金ベース、格下げされた銘柄群に属する。カタリスト: 初めての本格的なAIクレジット消費実績の開示。

波及効果

  • 席課金依存度の高いSMB向けSaaS(HUBS、ASAN、MNDY): Help Scoutの事例が示唆するのは、買い手は席課金にしがみつく傾向があり、見出しが示唆するほど急速には収益基盤が目減りしないということだ。ただし「人員の減少」が成長の天井を作る。注目すべきはロゴ数ではなくNRRだ。
  • モデル/推論プロバイダー: OpenAIの約50%のコスト削減と、Amazonへの強制的なトークン課金再交渉が示すのは、ラボ側がマージンを守りにいっており、それを顧客に還元しない姿勢だ。再販業者側には自動的な原価改善の恩恵はなく、Coinbaseのようなコスト削減事例は、需要がすでに予算に応じて弾力的になっていることを示している。
  • マルチプルの格下げ: 実績に基づく二極化が進む。データを握り、従量課金が持続的な銘柄(CRM、DDOG)は好意的に評価される一方、席課金に後付けした銘柄は、実績を示すまで「半ば死に金」の扱いを受け続ける。決算予想が上方修正されていてもだ。

先週からの変化

従量課金をめぐる論調は、勝ち誇ったものから議論含みのものへと転じた。先週はConfluentのCFOが従量課金を「一方通行のドア」と呼んだが、今週はHelp Scoutが、選択肢を与えられた顧客がそのドアを閉め切ってしまう様子を示した。トークン支出の上限というテーマはさらに広がり(Uber/Meta/Microsoftから今週はCoinbaseの-50%、Ford、Pricelineへ)。先週語られたAnthropicの粗利率38%→70%という主張は今週は影を潜め、代わってOpenAIの約50%の推論コスト削減と、Amazonの時間課金からトークン課金への切り替えが注目された。取り上げ企業も大きく入れ替わった。 Asana、Atlassian、Adobeが直接カバレッジの対象となった一方、先週唯一直接名指しされていたMonday.comは今週まったく話題に上らなかった。 DDOGとHUBSは引き続き間接言及にとどまった。依然として4週連続で欠けているのは、7社いずれからの、AI機能の明確な粗利率(%)、そして確かなNRR実績の開示だ。